初代の市川団十郎が坂田金時を主人公にした、人形浄瑠璃の台本を舞台用にしたものを上演する時、人形からヒントを得て、紅色と墨色で描いたのが最初の隈取であった。この時点での隈取は、派手なあらっぽいものであったと思われる。本物と偽物は定かではないが隈取の特徴である「ぼかし」の技巧は、二代目市川団十郎が牡丹の花を観察して考案したものと言われ、以後の隈取はよりいっそう洗練されていくことになる。
江戸の荒事の中で隈取が発展する際に参考とされたのが、仁王像などに代表される仏像の誇張された筋肉表現と能面の洗練された表情の表現であった。一方、和事は元禄期に発生し、主に京都の芸系に伝わった、京都の和事を中心とした凝った筋書きの芝居の影響によって、隈取も荒々しいだけでなく色気を意識するようになる。歌舞伎の色男の代表格「助六」の主人公で「むきみ」の隈取も色っぽい助六は、現在こそ威勢のいい江戸男として知られるが、もともと京都歌舞伎出身のキャラクターである。
今日伝わる隈取の多くは九代目市川団十郎の高弟、市川新十郎により残された。古今東西多くの隈取を熟知していた新十郎は、太田雅光の協力で研究書『歌舞伎隈取』を著した。弟子の中村秀十郎の証言では、臨終時の新十郎の顔に隈が浮かび現れいくら洗っても消えなかったという。
1.2歌舞伎の隈取化粧の方法について
隈取は、「描く」のではなく「取る」と表現される。遠くから見てもはっきり分かるように筋は指でぼかす。江戸時代の人々からすると、もしも歌舞伎の役者が化粧しないのでは、彼らはとても驚きと感じるのである。室内の劇場なので、歌舞伎役者と観衆の距離はとても近い、だから役者の顔立ちは大変に重要で、それで化粧するのがとても濃いのだった。歌舞伎は京劇のように、れんぷを描き出して、「隈取」と称する。「隈取」は歌舞伎の独特な化粧方法で、それが伎楽の化粧方法と舞楽の化粧の方法と能楽の化粧の方法の制約を離れて、自身の芝居の革新性を完成した。「隈取」は陰影や濃淡などで境目をつけること。その手法は輪郭に沿って、水墨や彩色をぼかして描くこと。俳優は、舞台に立つ時は、独特の化粧をする。たとえば:目や鼻筋や口などが遠くからでもはっきり判るような化粧をする。これを「舞台化粧」と言う。
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